睡眠専門医 坪田聡さんのコラム [不眠対策は睡眠を正しく理解することから] です。

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不眠対策は睡眠を正しく理解することから

2015/01/27

写真:坪田聡坪田聡
(睡眠専門医)

10人に2人から、10人に3人へ――増えている日本の「不眠」

不眠に悩んでいる方は、約10年前は 10人に2人の割合でしたが、近年は10人に3人へと増えています。
もちろん、不眠症という病気の認知度が上がったことも、増加の理由の一つではありますが、これまで睡眠の専門医として延べ1,000人以上の患者さんを診てきた中で、不眠症とひと口に言っても、その質がここ最近で変わってきていると実感しています。十分な睡眠時間をとっていると答える人も、実は不眠症だったりします。
国は「健康づくりのための睡眠指針」を今年改訂しています。それは、年間3兆5000億円とも言われる睡眠障害による経済損失を減らすためです。眠気に襲われ交通事故をおこしたり、仕事において重大なミスを犯したりと、不眠症から引き起こされる人的被害は深刻化しており、同時に不眠症からうつ病になり自殺に追い込まれる方の増加が懸念されています。

間違った情報・誤解がさらなる不眠を呼ぶ

不眠症で悩まれる方はどの年代層でも増えていますが、同時にそれぞれの年代において、睡眠に関する間違った情報や誤解がさらなる不眠を引き起こしているように思われます。
一般的に、若い頃8時間位睡眠を取っていた方でも、高齢になると6時間位に減る傾向があります。これは睡眠を促す脳の機能が老化した結果なので、実はそれほど気にすることではないのです。睡眠時間が減ることに不安を覚え、頑張って早く寝てしまうと逆効果です。例えば24時にいつも寝ていた人が無理に21時に寝るようにすると、夜中の3時頃に目が覚めてしまう。この時間に起きてしまうと不眠と感じてしまいますが、睡眠時間だけ見れば6時間あるので十分と言えます。
早く寝れば良いというわけではありません。ご飯を食べてすぐ寝てしまうと、全身の筋肉が緩みます。そうすると胸焼けやゲップの症状があらわれ、夜中に目が覚めやすくなります。さらに翌朝、喉がいがらっぽかったり、日中にもその症状が続くこともあります。それが不眠の原因につながったりもします。単純に就寝時間や睡眠時間だけで、睡眠の質を図ることはできないのです。
また若い人の中では、自分は過眠症だと思い込んでいる不眠症の方も多いようです。間違った情報から、無理に睡眠時間を短くした結果、仕事中に事故を起こす率が増えています。
不眠症をなくすためには、年齢に即した正しい知識を得ることが大切です。

年齢やライフスタイル別に不眠対策への理解を

高齢者の睡眠時間が短くなる傾向にあるのは、あくまで睡眠を促す脳の機能が老化した結果なので、自然な事象だとお伝えしました。高齢になると日中の活動量も若い頃よりも減るので、消費されるエネルギーが少ない分、あまり休まなくてもよいとも言えます。気になる方は寝る時間を少し遅くしてみたり、日中の活動を増やしてみると良いでしょう。
睡眠時間の長さ=睡眠の質ではありません。働く年代でよく聞く「寝だめ」は、勘違いを生む表現です。睡眠効果を貯めることは不可能です。休日に長時間寝てしまうのは、あくまで平日の睡眠不足を取り戻しているだけです。
休日は長くても平日の睡眠時間プラス2時間までに抑えると良いでしょう。2時間を超えると夜の睡眠の妨げになり、なかなか寝付けなくなります。すると平日の睡眠の質にも悪影響を及ぼし、いわゆる「ブルーマンデー」の原因となってしまいます。よく寝たはずなのに疲れがとれない・・・という方は、休日の睡眠時間を見直してみましょう。また、仮眠も眠気を感じる前に取ることが理想的です。まとまった時間が取れなければ1分だけでも大丈夫です。20分うとうとするだけでも確実にパフォーマンスは上がります。
カフェインをとってから仮眠すると、より気持ちよく目覚めることができます。ただし30分以上の仮眠は、逆に病気にかかりやすいというデータも出ていますので、長くても20分を目安にしてください。
次回は、快眠できるカラダづくりについて、お伝えします。

坪田聡

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